1 はじめに
交通事故の被害に遭われた方は、相手方の保険会社と示談交渉を行って、適切な賠償金を獲得するよう努めるのが一般的です。
一般論としては、損害賠償請求権は、交通事故の被害者ご本人に発生するものですから、原則としては、ご本人以外は請求できません。
しかし、死亡事故の場合には、交通事故の被害者に発生した損害賠償請求権をご本人から相続した相続人が請求するということになります。
では、例えば、ご本人だけでなく、近親者にも慰謝料が発生したとして、近親者固有の慰謝料を請求することはできるでしょうか。
2 近親者の慰謝料
当然ですが、大切家族が亡くなったり、後遺障害が残ってしまえば、ご家族も大きな精神的苦痛を受けます。
近親者慰謝料とは、近親者固有の慰謝料とも呼ばれるもので、被害者の近親者が被った精神的苦痛・損害に対して支払われるものです。
「民法」
第711条(近親者に対する損害の賠償)
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
民法には上記条文があります。
しかし、金額については明確な基準はありません。
死亡慰謝料の計算方法は、自賠責基準と任意保険基準、裁判基準の3つの基準によって異なりますが、遺族固有の慰謝料がもっともわかりやすく認められるのは自賠責基準です。
この場合、慰謝料請求権が認められるのは被害者の父母、配偶者と子どもですが、その金額は請求権者の人数によって異なります。
具体的には、請求権者が1人の場合は550万円となりますし、2人の場合は650万円、3人以上の場合は750万円となります。
被害者が扶養していた人(被扶養者)がいる場合、請求権者が1人の場合には750万円、2人の場合には850万円、3人以上の場合には950万円となります。
裁判基準の場合には、「死亡慰謝料」という枠組みの中に遺族固有の慰謝料の金額も組み込まれることになります。
したがって、特段の事情がない限りは、ご本人の死亡慰謝料とは別に近親者慰謝料は発生しないと考えるか、近親者慰謝料の分をご本人の死亡慰謝料の額と調整して算定されている印象です。
3 重度後遺障害が残存した場合
上記民法の条文では、近親者の慰謝料は死亡事故に限られそうにも思えますが、判例では、被害者の方が死亡した時にも比肩しうべき精神上の苦痛を近親者の方が受けたという場合は、近親者からの慰謝料請求が認められます(最高裁判所昭和33年8月5日第三小法廷判決)。
どのような場合に近親者の方に被害者死亡と同等の精神的苦痛が生じたと認められるかですが、後遺障害等級1級・2級などのケースで、近親者慰謝料が認められることがあります。
金額については、死亡のときと同様に基準はありませんが、基本的な考え方は同様であると考えられます。
4 まとめ
交通事故の被害に遭われ、特に、ご家族を亡くされてしまった場合、精神的なショックは大変大きいものと思います。
そのような中で、保険会社と示談交渉を行うことは、さらに負担が大きいと思います。
保険会社の提案が正しいのか、不安もあると思います。
お困りの際には、是非、上山法律事務所にご相談ください。