1 はじめに
交通事故の被害者の方が、損害賠償金をもらう前提として、加害者側の保険会社と交渉するのが一般的だと思います。
その際、最終的に合意が成立すると、示談書を取り交わすと思います。
この示談書ですが、民法上は、裁判外の和解契約といって、れっきとした契約です。
和解契約に至ると、契約した後に、お互い蒸し返すことはできないという意味で、重要な意味があります。
2 物損で示談したとき、人損で違う過失割合を主張できるか
物損と人損の両方が問題となるケースでは、まず先に物損で示談し、症状固定を待ってから人損について示談に至るという流れになると思います。
では、過失割合が問題となるケースで、物損で示談が成立した後に、人損の方で異なる過失割合を主張することは可能でしょうか。
物損で合意した過失割合の内容は、概ね人損でも同じ過失割合で合意に至ることが多いと思います。
しかし、必ずしも物損と同じ過失割合となるわけでなく、被害者側も加害者側も、異なる過失割合を主張すること自体は可能です。
よく見るのは、人損での交渉に納得が行かずに裁判になった場合に、従前と異なる主張が出てくるというケースです。
裁判所は、人損の方で過失割合に合意していない以上、客観的な事故態様を踏まえて判断します。したがって、被害者側としても、有利にも不利にもなる可能性があることを頭に入れて対応しなければなりません。
人身傷害補償保険に加入していれば、過失割合の争点を解消することができることは、これまでのコラムでも述べた通りです
しかし、人身傷害補償保険に加入していない場合は、過失割合が変わり得る可能性があることも踏まえて、損害賠償金について合意するかどうかを決める必要があります。
3 保険会社の事前提示の過失割合に拘束力はあるか
これと少し似た問題として、保険会社が示談交渉の際に、事前に提示した損害賠償金の前提としての過失割合については、拘束力はあるでしょうか。
答えは否です。
保険会社は、「早期円満解決のために譲歩したのであり、訴訟になれば、保険会社の考える過失割合を主張します」という態度で対応してきますし、実際に、示談が成立していない以上は、そのような対応は許されています。
この場合には、客観的な事故態様を基に、裁判所も証拠等を踏まえて過失割合を判断します。
もちろん、事前に保険会社が提示した過失割合は、相応に保険会社として根拠を持ったものでしょうから、極端に変わることは考えにくいですが、私どもが対応している事案では、当初、保険会社は3(被害者)対7(加害者)と提示していたにもかかわらず、訴訟では、7(被害者)対3(加害者)と真逆の過失割合を主張してきたことがあります。
そのため、交渉を打ち切って訴訟を選択する際には、保険会社が事前提示を全てひっくり返してくることがあることを前提に検討する必要があります。
4 最後に
以上見たように、本日は、物損で合意した過失割合や、事前提示で保険会社が示した過失割合に拘束力があるわけではないということをご理解いただきたく投稿しました。
最終的に、交渉で合意するか、交渉を打ち切って訴訟を選択するかの段階において、非常に重要な問題です。
人身傷害補償保険に加入していなければ、まさにこの過失割合の認定によって、得られる損害賠償金の額が大きく異なってくる可能性があります。
過失割合でお困りだったり、決断を迷われていらっしゃる交通事故被害者の方は、是非、上山法律事務所にご相談ください。