Archive for the ‘交通事故の示談交渉について’ Category
どこの裁判所で裁判するのか
1 はじめに
交通事故の被害に遭われた方は、通常、相手方の保険会社と示談交渉の話し合いをすることになると思います。
これは、物損事故も人身事故でも変わりありません。
話し合いで解決ができない場合には、訴訟=裁判で解決を図ることになると思います。
訴訟提起するのは、通常は、もっと賠償額は高額なはずだということで、交通事故の被害者の側から行うのが通常です。
この場合、どこの裁判所で裁判をすることになるのでしょうか。
2 場所は?
原則としては、被告の住所地を管轄する裁判所になります。これは、一方的に訴えられる被告側に準備の機会を与えるためだと言われています。
ただ、交通事故の損害賠償請求のような金銭請求の事案について、義務履行地に訴訟提起することもできます。本来、債務者=加害者から債権者=被害者にお金を持参して支払うという原則があるため、支払義務は被害者の住所地になることから、被害者の住所地を管轄する裁判所でも訴訟提起できます。
また、事故発生地を管轄する裁判所でも訴訟提起できます。
このように複数の裁判所が管轄を持つこともあります。
3 地方裁判所と簡易裁判所
裁判制度は三審制ですが、民事訴訟の場合、1審の裁判所は、簡易裁判所と地方裁判所があり得ます。
これは、請求額が140万円以下かどうかで区別されます。
ただ、140万円以下の場合(物損はほとんど該当すると思います)で、簡易裁判所に訴訟提起をしたとしても、事案が複雑なときには、簡易裁判所の方から、地方裁判所に職権で移送することもあります(裁量移送といいます)。
地方裁判所と簡易裁判所の違いですが、これから先は、法律的な根拠に基づくものではなく、私どもの私見です。
一般論としては、地方裁判所の方が、当事者の主張や証拠を精密に検討しています。最終的には、どちらの裁判所であっても、和解によって終了することがほとんどですが、審理については、地裁の方が緻密で長くかかる印象です。
簡易裁判所は、言い方は悪いですが、ある程度ざっくりと、早期解決を目指すという印象を受けます。簡易裁判所に特徴的なものとして、司法委員という裁判官以外の有識者(交通事故案件であれば、かつて、保険会社に長く勤務していた方等)に裁判に立ち会わせて、和解協議をさせることもあります。地裁よりも1回の裁判期日に長く時間をとって、ざっくばらんに話を聞いて早期解決を目指すという形を目指しているのかもしれません。
4 まとめ
以上のように、交通事故の被害者の方が裁判を選択した場合に少しでもイメージができるように記載してみました。
当事務所では、交通事故の被害者の方が、保険会社の提示額に納得されない場合には、訴訟による解決を進めており、豊富な実績があります。
交通事故の被害に遭われた方は、是非、上山法律事務所にご相談ください。
交通事故と破産事件②
1 はじめに
交通事故の被害に遭われた方は、正当な損害賠償金を獲得するために、相手方の保険会社と示談交渉するのが通例です。
しかし、これはあくまで一般的なケースを想定したものです。
相手方が、任意保険に加入していない場合、この前提が崩れます。
無保険の場合については、当ホームページで簡単に概要をご説明しています。
強制保険と言われる自賠責や、政府保証事業については、いわば1階部分となります。
そのため、ご自身が人身傷害保険に加入していなかったり、適用対象外の事故の場合、相手方から直接、2階部分(本来は任意保険会社から支払ってもらう部分)について回収しなければなりません。
2 加害者に支払能力がない場合
事故がさほど大きいものではなく、2階部分が多額にならなければ、加害者が手出しをして支払うことができるかもしれません。
しかし、重度の後遺障害が残存したり、死亡事故の場合はどうなるでしょうか。
賠償額も高額になるため、加害者が支払うことができないという状況もありえます。
その場合、長期の分割払いの提案があったり、破産申し立てをされてしまう可能性があります。
3 加害者が破産するとどうなるか
加害者が破産の申し立てを行った場合、破産手続の中では、交通事故の被害者の損害賠償請求権は、破産債権という扱いになります。
破産した加害者に、債権者に配当できるような資産があれば、それをお金に換えた後に金銭の形で配当されます。しかし、配当率は低く、少額になるのがほとんどです。そもそも、配当できるような資産が無ければ、それも見込めません。
その後、加害者が、免責決定を受けると、原則として債務はチャラになってしまいます。
交通事故の被害者の方から見れば、まさに泣き寝入りです。
しかし、破産法では、以下の場合には非免責債権として扱われています。
① 悪意で加えた不法行為
② 故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
①についてですが、「悪意」とは、単なる故意ではなく、「不正に他人を害する意思ないし積極的な害意」を意味するとされています。
交通事故の場合でいえば、被害者に保険金をかけて、あえてひき殺すような、著しく悪質なケースが想定されます。
②についてですが、まず「生命身体に対する」とされているため、物損は対象外です。物損は、悪意がない限りは全て免責されます。
また、「重大な過失」とは、「故意に匹敵するほどの著しい注意義務違反」を指します。
具体的には酒酔い、無免許、危険運転致死傷罪に該当する危険運転などの場合が想定されます。また、他にも、事故の具体的な態様によっては、重大な過失と認定される可能性があります。
一方、重過失とまではいえない通常の過失、不注意により生じた生命または身体を害した場合の損害賠償請求権は含まれませんので、自己破産により免責されます。
以上については、明確な基準があるわけではありませんので、最終的には、当該事故の態様から、ケースバイケースの判断となると思います。
4 まとめ
相手方が任意保険に加入しておらず、相手方から直接、賠償金を回収しなければならない場合には、以上の点にも注意して対応しなければなりません。
お困りの場合には、是非、上山法律事務所にご相談ください。
なお、任意保険に加入している交通事故の加害者が破産した場合には、任意保険は、直接、被害者に支払いを行うことになっているようです。先日、当事務所で破産管財人として対応したケースでも、任意保険会社はそのように対応していました。
交通事故と破産事件
1 はじめに
交通事故の被害に遭われた方の中には、事故前から生活に苦しんでいる方も多いと思います。
交通事故の示談交渉で高額の賠償金を獲得できれば、それを債務への返済に充てるということもあり得ると思いますが、賠償金では完済ができずに多額の債務が残ってしまう…こういった事例も、実は世の中では多く見受けられます。
このように、交通事故の被害に遭われた方が多重債務者である場合、どのように対応したらよいのでしょうか。
2 破産するまでの必要が無いケース
まず、破産するまでの必要が無いケースの場合には、通常通り、交通事故の被害者として示談交渉を行い、できうる限り最大限の賠償金を獲得するよう努力することになります。
その賠償金を、どのように使うかは原則は自由です。
破産しないということであれば、否認(特定の債権者にだけ有利な弁済をした場合等に、それを破産手続の中で破産管財人が否定する制度です)のリスクもありません。
3 破産を検討するケース
(1)破産手続開始前に示談してい場合
前述の通り、獲得できそうな賠償金では債務の返済について目途が立たない場合には、注意を要します。
まず、破産手続に入る前に示談して賠償金を回収した場合には、それまでの預貯金等を含めた他の資産と合わせて99万円の範囲までは、自由財産ということで手元に残すことができると思いますが、それ以上の金額については、原則としては、破産財団(破産管財人が債権者に配当するための原資となるものです)に組み入れる必要があります。
破産の準備等に入りそうな時期に、破産財団にそのお金を引き継ぐことなく浪費した場合には、免責不許可事由(チャラにしてもらえない事情)になる可能性があります。
(2)破産手続に入る前に示談していない場合
次に、破産手続に入る前に示談していない場合です。
この場合は、損害項目によって、破産財団に組み入れるかどうかが変わってきます。
治療費については、保険会社が医療機関に直接支払っているものと思われますし、そのような処理に問題はないと思います。
休業損害や、後遺障害が残存した場合の逸失利益については、原則として破産財団に帰属します。しかし、これらは、破産者の将来の自由財産の減少分を補填するという意味があり、個別事件ごとに自由財産の拡張が認められるべきであると考えられています。
慰謝料については、金額が定まっていない時点では、自由財産になり、裁判や合意により金額が確定した段階では、破産財団に帰属することになります。ただし、慰謝料は、被害者の人格的価値の毀損に対する損害の填補であるので、その全てを破産財団に帰属させるのは妥当ではなく、かなりの割合で自由財産の拡張が認められるべきではないかと考えられています。
このように、破産手続に入ってからは、明確な指標はありませんが、破産手続前に比べると、交通事故の被害に遭った方の手元に残せるものが多そうな感じです。
3 まとめ
以上のように、多重債務者の方が交通事故の被害に遭われた場合、いつのタイミングで示談をするかも重要な問題になります。
ただでさえ苦しい中、事故にも遭われてより苦しいという状況かと思います。
お困りの方は、是非、上山法律事務所にご相談ください。
交通事故と行政事件
1 はじめに
交通事故が発生し、事故を起こしてしまった場合、民事的には損害賠償請求、刑事的には過失運転致死傷罪等で捜査がなされる可能性があります。
では、行政処分についてはどうでしょうか。
交通事故で問題となる行政処分は、主に違反点数と、それを基にした免許停止あるいは免許取消処分のことです。
2 違反点数制度と処分
警視庁のホームページに、違反点数一覧表があります。
当ホームページでも飲酒運転についてまとめています。
飲酒運転について | 鹿児島で交通事故・後遺症でお困りなら無料法律相談対応の弁護士法人かごしま上山法律事務所にお任せください (kagoshima-koutsujiko.com)
例えば、呼気中アルコール濃度0.15mg以上~0.25mg未満の酒気帯び運転の違反点数は原則として13点です。13点は前歴がない方にとっては免許の停止90日となります。
0.25mg以上の酒気帯び運転は違反点数25点となり、免許の取消(欠格期間2年)となります。
一方、正常な運転ができないほど酔っていたと判断され、酒酔い運転となった場合、違反点数は35点となり、免許の取消(欠格期間3年)となります。
3 実際の手続き
免許停止、取り消しに至らない違反点数の場合には、反則金を納付して終了ということにな
ると思います。
警視庁のホームページに、反則行為の種別及び反則金一覧表があります。
免許停止あるいは免許取消の処分が予定されている場合には、意見の聴取が行われます。
意見の聴取とは、処分が公正に行われるよう、運転者が意見を述べ、自己に有利な証拠を提出する機会を与えるための手続きです。
出頭通知書に指定された日時・場所(警察署や運転免許センターなど)で違反についての具体的な事実確認が行われます。
違反者の主張が正当と認められた場合は、処分が軽減されることも予定されている制度で
はあります。
代理人を出席させたり、弁護士と一緒に出席することもできるようになっています。
4 最後に
最近、飲酒運転絡みでこの種の問い合わせが増えています。例えば、お酒を飲んだまま駐車場で寝ていて、起きて運転したら…といったものもありました。
率直なところ、この種の行政手続に弁護士が関与することは極めて稀だと思います。
ただ、交通事故によって、上記違反点数の問題だけでなく、物損や人損の民事事件や刑事事件が絡むケースもあると思います。
ご家族がこのような問題に遭遇する可能性もあると思います。
交通事故が発生し、初動からどのように対応したらいいか分からないという方は、是非、上山法律事務所にご相談ください。
入院雑費
1 はじめに
交通事故の被害に遭われて、お怪我の程度が大きく、入院を要する方もいらっしゃると思います。
入院中に必要な入院費、治療費については、原則として、加害者の加入する保険会社に負担してもらうことになります。
では、入院中に掛かった諸経費についてはどうでしょうか。
法律的には、これを入院雑費といいます。
2 入院雑費とは
日常雑貨品(衣類等)、栄養補給品、通信費(電話、郵便等)、文化費(新聞、雑誌、テレビ利用券代等)等、かなり広範囲の雑費を含んでいます。
この入院雑費ですが、基準となる金額が低額化されています。
例えば、自賠責保険の基準では、1日当たり1100円とされています。
裁判基準では、1日当たり1500円とされています。
このように定額化された金額を請求する場合には、領収書は必要ありません。
実際の示談交渉の場面では、保険会社側は、裁判基準の1500円ではなく、1100円で提示してくることが多い印象です。
入院期間が少なければ、結論に大きな影響はないかもしれません(それよりも、慰謝料の方が裁判基準と保険会社の提案額に大きな差があることがほとんとで、主戦場はそちらになっている事案が多いのではないでしょうか)。
ただ、重症で入院期間が長かったり、骨折後にボルトを入れており、除去のために複数回入院し、結果として入院期間が累積的に長い日数になった場合等は、見過ごせない差になることもありますので、注意が必要です。
3 基準を超える場合
明らかに上記の日額の基準では足らず、定額化された金額を超えるというケースもあると思います。
入院雑費は、入院によって通常必要であると考えられるものを念頭に置いています。場合によっては、通常の範囲を超えて入院雑費を支払わなければならないことも考えられます。
このような定額の入院雑費以外にも、必要かつ妥当な実費が、個別に損害として認定される余地があります。そのため、領収書等を保管しておく必要があります。
重度後遺障害が残存した場合のおむつ代等、裁判例で認められているケースもあります。
4 まとめ
以上の通り、交通事故の被害に遭われた方に、保険会社から損害の提示があった際、特に疑問を抱くことなく、入院雑費を眺めていらっしゃるかもしれません。
本当はもっと支出していたはずだと疑問に思われたりした場合には、是非、上山法律事務所にご相談ください。
通院交通費について
1 はじめに
交通事故の被害に遭われた方で、お怪我を負った場合、事故直後から整形外科等の病院に通院されると思います。
その場合、交通費の請求が問題となります。
徒歩圏内で、かつ徒歩での通院が可能であれば、原則として交通費の負担も問題にならないと思います。
ただ、一般的にはそのようなことはなく、何らかの形で通院に時間や費用をかけていると思います。
交通費は、必要性、相当性が認められれば相手方に請求できます。
治療の必要性が認められ、かつ、距離的にも自力での通院が困難であれば、交通費支出の必要性は認められます。
では、相当性の観点ではどうでしょうか。
2 公共交通機関の場合
バスや電車の場合、基本的には、支出した分を請求できると思います。
新幹線は、それだけの遠距離になってもその医療機関に通院する必要があるか、また、新幹線を利用するだけの事情があるか(移動時間をできるだけ短くする必要があるような症状がある場合)といった観点から、極めて例外的に認められると思います。
3 タクシーの場合
タクシー代に関しては、タクシーの利用が相当とされる場合に限って交通費として支払いが認められます。
よって、タクシー代を通院交通費として請求するためには、タクシー利用の必要性について、一般的・客観的に見て納得のいく理由があることが必要です。
徒歩で公共交通機関まで行くのが非常に困難な場合等が考えられると思います。
ただ、仮にこのような事情があったとしても、症状固定までの全期間が当然に認められるわけではなく、例えば、事故から数カ月経過した後は、公共交通機関に切り替えることが可能だったのではないかという指摘が来ることもあり得ます。
タクシー代は高額になる傾向があるため、相手方の保険会社ともよく話し合っておく必要があると思います。
4 自家用車の場合
鹿児島のような地方の場合、これが一番多い手段だと思います。
この場合、ガソリン代、高速料金代、駐車場代などを通院交通費として請求できます。
自家用車を利用する場合は、タクシーよりも交通費の支出を抑えようとしていると考えられるため、ガソリン代などが損害として認められやすくなっています。
ガソリン代については、自宅から病院までの距離をもとに1kmあたり15円として計算するのが実務で定着しています(現実に出費した金額ではありません)。
例えば、10km離れた病院に20日間通院した場合のガソリン代計算は以下の通りです。
10キロ×2(往復)×20日(通院日数)×15円=6000円
5 まとめ
通院交通費は、休業損害や慰謝料等に比べると、相対的には金額も大きくはありませんが、長期間に亘る通院等の場合には、積算すれば、無視できない金額になることもあります。
特に、公共交通機関やタクシーを利用した場合には、原則として領収書も必要になります。
事故直後の段階から、証拠収集も含めて弁護士に相談することをお勧めします。
交通事故の被害に遭われてお困りの方は、是非、上山法律事務所にご相談ください。
既払金の扱いについて
1 はじめに
交通事故の被害に遭われた方が、交通事故の加害者の方と示談交渉を行う際、既に支払われた金額についての処理が問題になることがあります。
例えば、典型的なのは治療費です。
治療費は、相手方の保険会社と過失割合の認識に大きな開きが無い限りは、保険会社が病院に直接支払いを行っていると思います。
これは、後から既払金として差し引かれます。
その他にも、休業損害が内払いされているようなケースもあります。
では、これら既払金については、そのまま全て差し引きされるべきなのでしょうか。
2 費目拘束
これらの既払金を差し引くかどうかは、法律的には、損益相殺の対象になるかという形で表現されます。
実際には、費目拘束があるかどうかという点が重要になります。
例えば、労災にも該当するような交通事故の場合に、労災から休業補償給付を受給したものについて、慰謝料からも差し引きを認めるかといいった形で問題となります。
特に、過失相殺が問題となる事故の場合には重要です。
単純化すると、事故により以下の損害が発生したとします。
過失割合は3対7で、こちらが3割引かれるとします。
治療費 20万円
休業損害 20万円
慰謝料 60万円
過失割合 30万円▲
損害額 70万円
では、労災から受け取った休業損害が20万円あったとします。
この場合に、損害費目に拘束が無く、損害から全部差し引きができるという処理をした場合、
70万円―20万円=50万円が請求額になります(※ 細かな話をすると、過失相殺の後に労災を差し引くのか、労災を差し引きしてから過失相殺をするのかという問題もあるのですが、判例は前者のため、そのような前提で記載しています)。
では、労災から受け取った休業損害は、20万円からしか差し引きができないとします。
その場合、過失3割が控除されるとすると、
治療費 20万円×0.7=14万円
休業損害 20万円×0.7=14万円
慰謝料 60万円×0.7=42万円
ここから、休業損害に20万円を充てるとすると、―6万円=0円となります。
残りの治療費14万円+慰謝料42万円=56万円が請求額となります。
以上のように、損益相殺の対象となる既払金について、費目拘束があるかどうかは、損害の計算に当たって、非常に重要な意味を持ちます。
3 実際にどうなっているのか
以下、それぞれの種類毎に整理しておきます。
① 加害者の弁済
加害者からの弁済は、弁済の趣旨によりますが、全損害への填補の趣旨の場合は、全損害から控除されます。
② 自賠責保険から支払われた損害賠償額
自賠責保険から支払われた損害賠償額は、人的損害に対するものです。物的損害には填補されないので、物損からは控除されません。人損については、いかなる損害名目で支払われたとしても、人損の全損害から控除されます。
③ 加害者側の任意保険会社からの支払い
任意保険会社からの支払いのうち、対人分は人損全体から、対物分は物損全体から控除されます。
④ 労災保険給付と損害費目との対応関係
保険給付の種類ごとに、控除できる損害費目との対応関係があります。
( )は通勤災害の場合です。
・療養補償給付(療養給付)→治療費
・介護補償給付(介護給付)→将来介護費
・遺族補償給付(遺族給付)→死亡逸失利益
・休業補償給付(休業給付)、傷病補償年金(傷病年金)、障害補償給付(障害給付)→休業損害と後遺障害逸失利益の合計
・葬祭料(葬祭給付)→葬儀費用
・慰謝料→なし
・特別支給金→なし
⑤ 国民年金・厚生年金と損害費目との対応関係
年金の種類ごとに、控除できる損害費目の対応関係があります。
(国民年金)
・障害基礎年金→休業損害、後遺障害逸失利益
・遺族基礎年金→遺族基礎年金
(厚生年金)
・障害厚生年金→休業損害、後遺障害逸失利益
・遺族厚生年金→死亡逸失利益
4 最後に
以上見たように、損害の計算において、既払金がどのように扱われているかは非常に重要です。保険会社の担当者の中にも、十分に理解できていない方も見受けられます。
過失相殺が問題となるケースでは、どこまで差し引かれるかで金額がかなり変動しますので、よく確認することが重要です。
交通事故の被害遭われてお困りの方は、是非、上山法律事務所にご相談ください。
一家の支柱とは
1 はじめに
交通事故の被害に遭われた方が、加害者に損害賠償請求を行う場合に、一家の支柱であるかどうかによって金額が変わることがあります。
特に、交通事故の被害者の方が亡くなってしまった場合に問題となります。
死亡慰謝料は、裁判基準では以下の通りとされています。
・一家の支柱の場合 2800万円
・母親、配偶者の場合 2500万円
・その他 2000万円~2500万円
また、死亡逸失利益の算定においては、以下の算定方式が採用されています。
・基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
このうち、生活費控除率は以下の通りとされています。
・一家の支柱の場合
被扶養者一人の場合 40%
被扶養者二人の場合 30%
・女性の場合(主婦、独身、幼児等を含む) 30%
・男性の場合(独身、幼児等を含む) 50%
2 一家の支柱とは
では、この一家の支柱とは、どういう場合に該当するのでしょうか。
一般的には、一家の支柱とは、その者の収入を主として世帯の生計を維持している者のことをいいます。
典型的には、配偶者がいて、子供を扶養しているような家庭です。
では、子供が独立した家庭の場合にはどうでしょうか。
高齢の場合で、年金生活者であっても、その者の収入を主として生計を維持しているケースでは、一家の支柱と認定された裁判例があります。
その世帯での収入を検討して、被害に遭った方の収入がどのくらいの割合を占めているかが重要であろうと思われます。
3 まとめ
交通事故の被害に遭われ、特に、ご家族を亡くされてしまった場合、精神的なショックは大変大きいものと思います。
そのような中で、保険会社と示談交渉を行うことは、さらに負担が大きいと思います。
保険会社の提案が正しいのか、不安もあると思います。
お困りの際には、是非、上山法律事務所にご相談ください。
交通事故と刑事事件③
1 はじめに
前回のコラムでは、刑事事件の流れをメインに記載しました。
刑事事件は、主に加害者が被害者あるいは被告人となって手続にどう関与するかという点が中心でした。
今回は、この刑事事件が、交通事故の被害に遭った方の側から見たときに、保険会社との示談交渉等にどのように絡むのかという観点から記載していきたいと思います。
2 民事の示談交渉の開始時期
まず、刑事事件については、在宅事件と身柄事件に分かれますが、交通事故案件の場合、在宅事件が圧倒的に多いことは前回お伝えしました。
事故後に、警察は、実況見分調書を作成しており、被害者、加害者、あるいは目撃者等の供述調書も作成しています。
これら捜査機関の手元にある書類については、刑事事件の処分が決まらないと、原則開示してもらえません。不起訴の場合には、実況見分調書のみ、有罪判決が確定すれば、検察官が刑事事件で証拠として提出したものは、開示を受けられます。
すなわち、在宅事件の場合には、不起訴であっても起訴されて有罪となった場合であっても、これらの書類の取り付けに時間が掛かるということです。
加害者の保険会社側もですが、警察の作成した実況見分調書は、事故態様や過失割合の検討に当たって、重視しております。そのため、事故態様や過失割合に関し、お互いの言い分が異なる事案の場合には、刑事事件が終了しなければ、民事の示談交渉が進められないという状況になることがほとんどです。
追突等で0対100であることが明らかな事案に関していえば、必ずしも刑事事件を待つ必要な無いかもしれませんが、それでも、関係証拠の精査をしてから民事の交渉を進めるという対応をすることは多くなると思います。
3 時間が掛かるのは悪いことなのか
以上のように記載すると、時間ばかり掛かって良いことは無いように思えてきます。
しかし、警察や検察の捜査に時間が掛かるというのは、それだけ重大な事故になっているケースが多いと思います。そうであれば、時間を掛けてでも慎重に対応するというのは必要なことだと思われます。
また、交通事故の被害者の方の損害賠償請求は、事故から完済までの間、年3%の割合による遅延損害金が付されます(2020年4月の改正前は年5%でした)。
したがって、事故から年月が掛かれば、それだけ損害賠償金に加算されていきますので、例えば、事故から3年が経てば9%が加算されることになり、もともとの損害賠償金が大きければ、付加される遅延損害金額も大きくなります。
以前のコラムで、示談交渉や裁判になった際の遅延損害金の一般的な扱われ方は記載しました。
示談交渉の場では、保険会社は一切負担しないですが、事故から長期間が経過している場合には、裁判になると遅延損害金が問題となることは保険会社も分かっていますので、その分、慰謝料等の額を裁判基準に近づけて解決しようという姿勢になることもあります。
裁判になれば、調整金名目で考慮されることが多くなりますし、事故から長期間が経過していれば、なおさらです。
4 まとめ
本日は、交通事故の被害に遭われた方から見た、刑事事件と示談交渉の絡みと、時間が掛かってしまうことの意味について、書かせていただきました。
上山法律事務所では、刑事事件の絡む交通事故の案件も多く扱ってきましたので、これらの経験を踏まえて、被害者の方のサポートをすることができます。
お困りの方は、是非、上山法律事務所までご相談ください。
交通事故と刑事事件②
1 はじめに
交通事故の被害に遭われた場合、警察に事故の連絡をして、現場の確認をすることになります。
物損の場合には、物件事故報告書が、人損の場合には、実況見分調書を作成することは、以前のコラム
で記載しました。
刑事事件との絡みで見ると、物損事故の場合には、加害者が罰せられることはありません(器物損壊罪は、故意=わざと壊した場合にのみ成立します)。
人損事故の場合には、加害者が被疑者となって捜査が進んでいくことになります。
本日は、刑事事件の流れをご説明します。
2 刑事事件の流れ
まず、刑事事件として裁判にかけるかどうかは、日本の法律では、検察官が判断することになっています。
交通事故の被害者の方のお怪我の程度がそれほどでもない場合には、警察は、微罪処分として検察に送らないで終わることもあるかもしれません。
検察に事件を送る場合には、書類送検という言葉と身柄送検という言葉があります。
書類送検は、加害者=被疑者の方を逮捕勾留することなく、在宅事件として扱う場合です。逆に逮捕勾留されている場合には、身柄を確保した状態で検察に送っているので、身柄送検という言い方になります。
その後の手続の流れですが、警察や検察の捜査の結果、最終的に検察が起訴(裁判にかけるかどうか)を決めます。
身柄送検されている事件の場合には、勾留期間が原則10日間、事情があれば一度だけ延長ができてもう10日の最大20日の間に捜査を済ませて起訴するかどうかを決めます(逮捕から勾留まで72時間の制約があり、逮捕時点からすると、最大23日ということになります)。
一方、在宅事件の場合には、この期間の制約がありません。検察官が、事件から裁判にかけるまでに公訴時効という概念があるのですが、この期間内であればよいということになります。参考までに、過失運失致傷罪(ケガをさせてしまった場合)の場合には5年、過失運転致死罪(死亡させてしまった場合)の場合には10年が公訴時効となっています。
交通事故案件の場合、被害者の方が死亡した事件であっても、逮捕勾留されていない事案はよく見かけます。お怪我の案件であればなおさらです。
上山法律事務所では刑事事件も扱っており、弁護人として交通事故の加害者側の刑事事件にも関与していますが、在宅事件が圧倒的に多いです。
したがって、刑事事件という観点からみると、警察や検察の捜査にかなり時間が掛かる案件が多いということになります。
交通事故の被害者の方が骨折した場合で、事故から半年以上経過していたり、1年くらいかかっているケースもざらにあります。
捜査が終了すると、検察が処分を決めます。不起訴にする場合もありますが、起訴する場合には、通常の公開法廷での裁判にかける場合と、略式起訴といって、罰金を言い渡す簡単な裁判手続にかける場合もあります。
私どもの刑事事件の経験からすると、交通事故の被害者の方が骨折等を負っている場合には、事故の予見可能性に疑義があるような事件でない限り、正式裁判にかかって、執行猶予付きの判決になるケースが多いと思います。死亡事故の場合にも同様で、実刑判決になるのは特殊要因があるような事案だと思います。
3 被害者の関与
では、上記刑事事件に、被害者はどのような形で関与するのでしょうか。
実況見分への立会を求められることもありますし、警察や検察官から、被害者として事故の状況や被害感情を確認され、供述調書の作成協力を求められます。
裁判のなった場合には、事案によっては検察官の側の証人として出廷し、証言の協力を求められることもあります。
被害者として公判に参加して意見を述べることもできます(被害者参加といいます)。
4 まとめ
交通事故の被害に遭われた方が、刑事事件として警察や検察に協力を求められた場合、民事事件の示談にどう影響するのかといったことも頭をよぎると思います。
上山法律事務所では、刑事事件の弁護人の経験も踏まえて、交通事故の被害者の方のサポートをすることができます。
お困りの方は、是非、上山法律事務所までご相談ください。
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